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平安のきもの遊び・かさねの色目と虫尽くし

2018年8月20日 09:22  草花の色 

振袖の色監修や、コーディネートを考えるときに常に頭にあるのが、かさねの色目でございます。


伝統色彩士協会では、平安時代の古典色と、江戸時代以降の現代色の両方を教えておりますが、公家文化であった頃の華やかな色の時代に比べ、武家文化の色は極めて地味であります。

ですので、最近のお仕事では公家文化の色を参考にすることが多くなりました。

そのことについて語りだしますと、長くなりますのでそれはまた追々に。


かさねの色目は、表の色と裏の色を組み合わせる重色目と十二単のような色の重なりのグラデーションを楽しむ襲色目がございますが、着物では表と裏の重色目を多く使用いたします。

袷仕立ての八掛の色なども重色目を参考にいたしております。



着物の絽や紗、上布はまさに蝉の羽のような薄衣でございます。

今日は平安の重ねの色目から「蝉の羽かさね」でコーディネートいたしました。

表【檜皮色】 裏【青】(平安時代は緑を青と呼んでいます)

平安時代の色目の中では数少ない、動物を表す重色目でございます。


檜皮色は檜の樹皮のような黒ずんだ赤茶色の色。それを蝉の羽に見立てていますので、夏の絽の透け感のある帯揚げと冠の帯締めに使用いたしました。

裏の青は、虫かごの麻の帯の色で。


麻の帯の前柄は、8月15日までは関東巻きで虫ととうもろこし。15日以降は関西巻きで虫と落ち葉。

少し秋の先取りを楽しんでいます。



今日は虫尽くしがテーマですので(あくまで自分の中でのテーマです)蝉の羽重ねに、鈴虫の帯、蛍ぼかしの紗の羽織。

源氏ホタルが7月ごろまで、平家ホタルが8月ごろまでとなっておりますので、今日のホタルは平家ホタルということで。



私の場合、色の法則は色相環で考えることはございません。

専門学校の講師時代は、補色色相・類似色相・3色配色などを元に教えておりましたが、草木染を行うようになって、一般的なカラースキームを一旦頭から外し、日本だけの独自の配色を古典文学や染の観点から考え直すようになりました。

書物で学んだ色でなく、自分の手で作り出す色を頭に叩き込んだのでございます。

そしてなぜこの配色なのか?という色のもつ背景をしっかり理解し、日本の風土とリンクさせてから自分の中に取り込むようにしております。


いささか極論にございますが、平安時代から現代の生活までに様々な進化や変化はあり、とても比べ物にはならないのですが、もしかして本質的なことは何一つ変わっていないようにも思えてなりません。


私達のDNAに組み込まれている季節感や、自然への思い、人と人との愛情のかわし方など、京都などをのんびり歩いてておりますと、すぐそこにまだ平安の美が漂っていることに不思議な気がいたします。


私は今どの時代を生きているのだろうか?などど思うことさえあったりするのでございます。

仕事である着物というツールがまるでタイムスリップのように過去と今の世界を行ったり来たり。

人の何倍もの長い人生を歩めているようです。


あけたては蝉のおりはへなきくらし

夜は蛍の燃えこそわたれ

(古今和歌集 恋 よみ人知らず)


夜があけてみれば蝉のようにずっと泣き暮らし、夜になれば蛍のように恋の思いが燃え続ける。


本日は、蝉も蛍もまとってはおりますが、恋の思いはいささか無縁の状態ゆえまことに寂しい限りでございます。



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