志村ふくみのもう一つの作品展「壺中居」
世田谷美術館の志村ふくみ展の素晴らしさとはまた違った感動のある作品展でした。
志村ふくみのきものを愛し、先生の作品だけを着続け生涯を捧げたと言っても良い女性がいます。
先生の著書の中にも登場するその女性は「マリア」さんと言われています。
2004年彼女は長年の先生の作品の殆どを大津の近代美術館に寄贈してしまいます。
彼女の箪笥の中には何もなくなってしまい、美術館での講演のさいに着用したきものは川端康成の形見の薩摩絣だったそうです。
そのころは私の尊敬する鶴見和子先生もまだお元気でいらっしゃいました。
志村ふくみ・鶴見和子対談の「いのちを纏う」は私の着物人生を変えてくれた本でもあります。
あの時滋賀の美術館に行けなかった私は「マリア」さんを本の中でしか知ることが出来ませんでした。
あれから12年、ようやく志村ふくみを支え続けたその女性にお会いできる日が。
白髪をきりっと後ろにまとめて、茶鼠のような色の紬と型染めの帯を締め、古き良き時代新橋の芸者さんであったという芯の強さを感じさせる凛とした背中。
細く華奢な体にゆったりと着つけられているその姿は、帯の位置だろうが、おはしょりの整え方だろうが、襟あわせだろうが、帯揚げの綺麗な整え方だろうが、そういう次元で考える着付けではありませんでした。
空気と一緒にまとう優しい着付け。
多分私が晩年を迎える頃、こうありたいという姿そのものでした。
今回は日本橋の「壺中居」にてマリアさんと呼ばれる佐久間幸子さんの、手元に残された先生の作品を古帛紗にして販売をするというもの。
着物を買うことはとても難しくとも、古帛紗に仕立て上げられていれば、一人でも多くの人に志村ふくみの作品を手にしてもらうことが出来るという思いからと伺いました。
また今回の作品は、世田谷美術館に展示されている先生の作品とは少し違っていました。
マリアさんが美術館に寄贈せず、大切に手元に置いたきもの。
30代から60代のエネルギッシュな頃の着物から仕立てられているので、織りに強い感情があるのです。
静かな琵琶湖のイメージとは違う、ふくみ先生の若い情熱を見た気がしました。
先に頂いたご案内状の中の作品はすべて初日を迎える前に売約済みとなっており、私は二日目の朝に伺いましたが、
お目当ての作品が購入できたのは奇跡的かと・・・。
さて購入したのはどんな作品か、またお知らせいたします。