人生を変える着物
今年は倒れそうなほど暑い夏でしたが、8月に入り支えてくれたのはこの越後上布だったように思います
着物生活に嫌気がさしてしまうほどの攻撃的な暑さに、体も気持ちも萎えてしまう日々が続きました。
いつもは涼しい小千谷縮ですが、今年は何を着ても暑い・・・。
夏はもう着物を着れないのでは?と真剣に思ってしまいました。
何を着ても暑いのだから、この越後上布は今年は下ろさず、来年に着るつもりでおりました。
ですが雨が続いたある日、小千谷縮が乾かず、かといって絽を着る気分でもなかったので思い切って越後上布を着用することに。
風の吹いている日ではなかったように思いますが、私の体には風が通り抜け、着ているようで着ていない。
日差しは遮られ、大きな日傘の下でまるで裸でいるような涼しさと開放感を感じました。
中島清志先生は伝統工芸士で越後上布の第一人者であられます。
重要無形文化財越後上布技術保存会協会理事も務め技術者の育成に力を注いでいらしゃいます。
先生の作品に最初出合ったのは、何年か前の三越での伝統工芸展でございました。
受賞なさった「無晒地立涌亀甲絣入縞」の素朴さの中に、すっきりとした縞と立涌のバランス。羽のように軽やかな美しい織にいつかは先生の作品を・・・とあこがれて続けてまいりました。
重要無形文化財の越後上布は、車1台分とも言われ、とても私の手の届くものではありませんが、こちらは古代越後上布。頑張って手の届く範囲で購入できるのではないかと。
経糸は苧麻の紡績糸。横糸は苧麻の手積み糸です。どちらも極細の120番手の糸です。
157通亀甲絣となっており、2018美しいキモノ夏号で吉田羊さんが同じ157通亀甲絣の古代越後上布をお召しになっております。
この着物を初めて見たときに、見えなくなってしまいそうな細い糸と経糸の本数に、とても衝撃を受けました。
今までは経糸と緯糸のおりなす色の美しさを好みとしてきましたが、これはそういう次元のものではありません。
織りあがるまでの工程を考えて、はたしてこのようなものが人間の手によって作られることが可能なのだろうか・・・・。
織を学んでいたからこそ、目の前の天女の羽衣のような空気を含んだ柔らかい、艶のある作品に敬服いたしました。
と同時に、自分の織に対する考え方も少し変わったように思います。
いずれ自分が織った作品を着用したいと考えていましたが、その前にこのように優れた伝統工芸士の技術をきちんと繋いでいくことも私の大事な仕事であると。
人生の転機の一つでもあったように思います。
長襦袢は小千谷縮です。
白でなく、薄いグレーを合わせました。
白よりもエレガントな雰囲気が気に入っております。
今日は横浜高島屋さんでのお仕事でしたが、朝晩は涼しくなり、久しぶりに快適な一日を過ごしました。
たかが着るものと侮るなかれ、着物は人生をも変える素晴らしい芸術です(笑)