いろのこと

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先生との約束

2020年8月21日 11:38  草花の色 



コロナで日本が最悪になるというシナリオの可能性は低まったとの発表があり、安堵しています。

少し気分が落ち着き、皆さんが穏やかに過ごしていただけると良いなと思っています。


マスコミの煽り、個人攻撃、政府のやり方など多くの批判はあると思いますが、そういうことに一つ一つ神経を尖らせていたら、とても疲れてしまうのでコロナに関して個人的な考えは強く持たないようにしています。


前回の草木染め講座の動画をアップいたしました。

お時間がある時にご覧ください。

https://youtu.be/WTUdjQH8YfU


昨日はずっと気になっていたことにけじめをつける日となりました。


二日ほど前、着物の整理をしていた時いくつかの反物が出てきました。

自分で染めた草木染めの色無地や長襦袢です。

包まれている紙に、目指せ人間国宝と書いてありました(笑)

「夢はでっかく持て!!その方が人生楽しいだろ!!」

そう言った先生の顔が急に浮かんで、懐かしい気持ちになりました。


私の染めの師匠は2人います




古くからのブログの読者の方はもうご存知だと思いますが、一人は引き染めを教えてくださった立石師匠。

坂東玉三郎の舞台衣装などを手がけたり、伊東深水がデザイン、先生が染めというすごい仕事をなさってきました。

話を聞くたびに、いつの時代のことなのだろうかと驚きましたが、当時先生は97歳ぐらいでしたので大正3年ぐらいの生まれ。

先生にとってはついこの間のような感じでした。


沢山の作品を制作してきた先生から引き染めを教われたことは本当に素晴らしい事だったと思っています。

草木染めの引き染めなど難易度が高いのに、それにこだわり続けて来た職人です。

師匠は2年前102歳でこの世を去りました。


もう一人、私が草木染めの道に入るきっかけとなった人が小林先生です。


小林先生については今までブログには書いてきませんでした。


記憶に蓋をするような出来事でもあったのであまり意識しないようにしてきたことです。


7年が経ちようやく心の余裕もでき、昨日工房を訪ねお嬢様と奥様にお会いできた事、本当に良かったと思います。先生との懐かしい話に花が咲き、心がほぐれていくような気持ちになりました。



あの日、先生の車で千葉の工房に行く途中の出来事でした。


「あまり心配しなくていいが、血液の癌が発見された。」


突然でしたので、返す言葉もなく、その日何を考えたのかは全く覚えていません。


お昼に蕎麦屋に寄り、先生と一緒に全く味のない蕎麦を食べ、工房で黙々と作業をしました。


そして帰りの車で先生が私に言った言葉がやがて協会の指針となることになります。


「もし、万が一のことがあったら約束して欲しい。草木染めの技術だけは絶やさず、どんな形でもいいから続けていって欲しい。そして次の世代の子供達に色を残して欲しい。

僕にはもしかしたら時間がないかもしれないけど、吉田さんになら出来ることだと思う」


いつもの先生とは違って、その時の言葉はとても重く強く感じました。


先生は当時いくつかの小中学校で草木染めを中心とした色の授業と道徳の先生をされていました。

学校での先生の働きは企業からの評価も高く、子供達の教育や講演ににとても力を入れていたのです。

それから少しして、

「久しぶりに友人と釣りに行ってこようかと思うよ」

嬉しそうに言って、釣りに行く船の中で亡くなりました。

脳出血でした。

前日まで元気でしたが、抗がん剤の治療で血管が脆くなっていたのでしょうか。

まだまだ色々と相談して進めていく予定が突然一人になりました。


しかし先生はそれまでに沢山の職人さんに私を紹介してくれていましたので、勉強を続けることは問題ありませんでした。

先のことを考えてくれていたのだなと後になってわかったことです。


あれから7年が経ち、先生の言われた通り、日本橋三越で草木染め講座を開講しています。

古民家園で子供達に藍染を教えています。

先生との約束はきちんと守れています。



日本の草木の色。

黄色人種に似合う色。

江戸時代の生活と生き方。


これが残すようにと言われた三つの事です。


コロナ禍で世の中が混沌としている今、私のやるべきこと。

残していかなくてはならない事。


先生の書かれたた文章とともに、もう一度自分に問いかけています。



[世界一贅沢な布づくりをさせていただいた男]

湯島朝活タイムズ 平成23年1月20日号より

 

44年前、学校を終わった後、父に江戸時代の大名の奥方達が着ていた着物12枚を遺され

“お前はこの様な着物を染めることのできる職人を育てろ”

と言われ、その道しか知らない人生を過ごしてきました。

 

電気のコンセントのない時代の布、化学染料のない時代の布、そこにあるのは手織りと草木染めでした。

 

昭和、平成という時代を江戸時代的な生き方をしてきた様です。

 

でもそこでふと気がついた事に、この布はヨーロッパの人がシルクロードという路までつくって追い求めて来た「世界で最高の布」だということに気付きました。

 

そこに使われている色達は、髪が黒くて瞳の黒い黄色人種の日本人を美しく見せてくれる色達でした。絵の具、染料のない時代にそれを草の中に見つけた日本人、ってすごいですね。

 

・紫草の根より頂く「紫色」

・茜の根より頂く「朱色」

・陽梅樹より頂く「黄色」

・黄檗の樹皮の黄と藍を混ぜた「グリーン」

 

この4つの色です。江戸時代に生きた人達の、知恵と工夫、ってすごいですね。

 

今、私は昔の人達がやっていたことを真似しているだけです。

新しい便利な染料が沢山つくられてきたのですが、それは「株式会社」にとって、「染め手」にとって大変便利なのですが、表面のみの美しさになってしまい、奥に秘めている「心の美しさ」がありません。

 

自然の草木から生命と引き換えに頂く色には「奥の色」があります。それが見える様になるよう、追い求めてきた人生、それが私でした。

 

駒込六義園の染井門隣に「工房 布礼愛」があります。

ゆとりがなくなりかけている時に、江戸の世の生き方に触れにお出かけいただければ幸いです。

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