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万葉集の色と香り

2019年4月5日 22:35  草花の色 

万葉集の中で色彩を表す用語は30種類ほどになります。

万葉集には相聞と晩歌がございまして、相聞は恋歌、挽歌は人の死を悼む歌となります。

色については相聞に多く、巻としましては十、十一、十二、作者未詳歌が多く、姓名の明らかな歌人の歌よりは誰とも知られず二人だけの恋を表現している作品が多くみられます。


新元号「令和」は八五二番歌序文より、「・・・・時に初春の令月にして、気淑く風和らぐ。梅は鏡前の粉を披く、蘭は珮後の香を燻らす燻らす。・・・・もし翰苑にあらずは、何をもちてか情を攄べむ」

「・・・・時は良き新春正月、外気は快く風は和らいで、梅は佳人の鏡台の白粉のように白く咲き、蘭は香袋のように香っている。・・・もし文章によらなければ、何をもって心中をのべようか・・・・」


万葉時代の花見は桜ではなく梅であることは私の授業でいつも言っておりますが、桃や梅などの中国伝来の花を見ますのが普通でございました。

蘭も、皆さんが良くお花屋さんで見る蘭とは違っており、東洋蘭,春蘭のことをさします。



日本の春蘭は香りがあまりいたしませんが、中国の春蘭はとても良い香りがいたしまして、貴香、薫香と呼ばれております。

今年のお香のお勉強は、この春蘭の香りをベースに調合していきたいと思っております。




伝統色彩士協会では現代の色(江戸時代以降)と古典の色(王朝時代)の両方を学びます。

両方を学びまして初めて日本の伝統色を理解することとなります。

万葉集では、染料、染法、濃度、色の性格、色に抱く感情などを具体的に表現することで、恋の現象と重ねて表現しており、色がうつろう、褪せるなどを人の気持ちが変わっていく、冷めていくなどに重ねております。

色を色としてだけでなく、気持ちや暮らし、変わりゆく景色などに思いを込める事は、現代でも同じことのように思います。

私が日本の色を記号などで表せないと感じますのも、同じ色でも気候や湿度などで見え方が変わってしまうと思っており、紫草であっても、いつも同じ色に染まるとも言えず、常に不安定な事の上にあるからでございます。


とはいえ、それが染色のゆらぎであり、心安らぐ色であるがえ、日本の伝統色に魅力を感じてまいったのだと思います。




「きものの四季」クラスでは、最初に紅を勉強いたしております。

わが国で最初に色彩として現れたものは紅でございます。

考古学の上で赤は縄文時代後晩期以降の貝塚人骨に認められております。

これらの赤は主として天然に産出する土や鉱物などですが、万葉集の中では、茜、苅安、梔子、紫草、橡などの現在も使われている草木の染料が示されており、染色の歴史の深さに驚くばかりでございます。

時を経て、今私達が同じ色を見ること、着物を着ることによって、その時代の人々の心の内も見えてくるような気がいたします。



新しい年号と共に、今一度万葉の色を見直し、現代の着物の中に取り入れていくことが出来ましたらそれも楽しゅうございます。





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