漢方よりも白髪染め
草木染めでの染色をやるときは、素手での作業ですので、油や化粧は厳禁。
無意識に顔を触った手で染浴に手を入れたら、化学薬品で染料にどんな影響があるかわからないのです。
仙台の正藍冷染の千葉家に伺った時に聞いたのですが、化粧やハンドクリームなどは勿論ですが、靴の底の土やほこりなども厳禁で昔はあやのさん以外は工房には入れなかったそうです。
私も工房での作業が多くなり、段々と化粧の頻度が少なくなり、着物を着ても写真のようにお化粧をすることがなくなりました。
百貨店のお仕事の時はきちんとお化粧しています。
(眉毛だけ油煙の煤で書いたりします)
ところで母方の祖母は94で亡くなりましたが、白髪頭の記憶はありません。
尊敬する木村孝先生も94歳過ぎても髪の毛は黒かったですね。
祖母はいつも着物の襟に手ぬぐいをかけ、私を呼び、まずお菓子をくれます。
それから一面鏡の前に座り、小皿に黒い粉をささっと溶いて歯ブラシで生え際をちょこちょこと塗っていくのです。
私は鏡に映る祖母の顔を見ながら、いつでも手伝えるように上っ張りを着て待機します。
祖母が「それじゃやっとくれ」といってお皿と歯ブラシを目の前に持ってくると、歯ブラシにその黒い液体をまぶして、祖母の後頭部の白髪を染めていきます。
塗り絵が好きでしたので、白いものを黒く塗りつぶす作業はちっとも苦にならず、また、細かい性格でしたので、一本たりとも逃すまいと毛の中をよくめくっては、集中してやっていました。
祖母はいつも「ああ~~この子は役に立つ、本当にありがたい」
そう言って嬉しそうにしていました。
白髪染めは結構な頻度で行われていたので、私は一度、おばあちゃんなのに何故そんなことをするのかと聞いたことがあります。
よそのおばあちゃんは髪の毛真っ白だよと。
(今思えばあの時まだ祖母は60代だったのです)
すると祖母は「元気のためだよ」そう言いました。
祖母はリウマチであちこちが痛く、いつも立ったり座ったりが苦しそうでした。
その為、漢方薬を処方されていて、それを飲むといくらか良いようでした。
「白髪染めは心の元気のためにやるんだよ、漢方で元気になるよりも、髪が黒い方が元気になるんだよ」
そう言っていました。
「着物もね、派手なものを着なくなるから、髪が白かったらおばあちゃんみたいだろう?」
というのですが、そもそもおばあちゃんじゃないかとその時に思ったのを覚えています・・笑
そんな祖母も男性の白髪染めには大変厳しく、電気屋のおじさんが髪を染めたことを、かなり辛辣に非難していました。
おじいちゃんのくせに髪が真っ黒で、見苦しいと・・汗
子供には何が正解で何が不正解なのか、全くわからない話でした。
今私は白髪染めをしています。
肌が弱いので、普通の白髪染めでは頭皮がピリピリして、ヘナにしたり、美容院で頭皮につかないように染めてもらったりマニキュアにしたりと色々工夫しています。
そんなヘナも最近痒みと湿疹が出るようになり、とうとう使えなくなりました。
しかし皮膚科で処方される白髪染めがあり、これだけは問題ないので助かっています。
この植物性の白髪染めは、私が日頃草木染めで使っている五倍子の成分からなっており、いわゆる昔のお歯黒と同じような成分です。
頭から若干お歯黒鉄の匂いがしますが、強くはないので気になりません。
多分祖母もこれと似たようなものを使っていたような気がします。
同じ香りなので。
私はまだしばらくは染めますが、あと10年もしたら自然のままでいいかなとも思っています。
いやいやもしかしたら祖母のように90歳を過ぎても黒く染めているかもしれません。
確かに髪に白髪がないと、気持ちが明るくなります。
漢方よりも白髪染めの祖母の言葉はあながち嘘ではないなと思うのです。