小千谷縮
昭和15年ごろ、女性が派手な着物を着ているとチャラチャラした格好であると批判を受けることはあった。
決まって、元芸者かお妾さんかという噂話が広まる。
私の好きな向田邦子のドラマなどではそういうシーンがよくある。
また元芸者と素人の着物の着方もはっきりと違う。
着物の形は同じでも色柄や着方で職業や生活スタイルがわかるのが面白い。
昭和初期の戦前の着物姿は本当に面白いことばかりである。
逆に戦後はつまらくなった。
この小千谷はもう20回以上洗濯機で洗っているが、年々良くなっていく。
最初の数年はあまり良くなくて着るのが億劫だった。
昨日新しい麻の浴衣が仕立て上がったが、これも何年か着ないといい感じにはならない。
新しいうちは馴染みが悪くて体に沿わない。
木綿は割と早くに馴染むが、麻は時間がかかる。
逆に正絹はなるべく新しい方が良い。くたびれた絹は疲れて見える。
アンティークとして着用するものは別だが。
結城紬も馴染ませるには時間がかかるので、家でなるべく着るようにしてから外に着ていく。
買ったらハイ終わりではなく、そこからどうやって着るかを考える。
コーディネートではなく、こなれた感じにするためだ。
若い頃はなんでも着て経験したいと思った。
銀座のママ風の大きなヘアセットを楽しんだ時期。
粋な着物や、レースなどの可愛い着物。
お下がりのレトロな着物やアンティークなども。
お茶の時代は豪華な訪問着も随分着たように思う。
産地の紬に凝った時期もある。
そうやって様々なものを着たおかげで、着物を頭で覚えるのではなく、自分の肌で覚えた。
今はもう好みのものだけを手元に置いてと考えているが、それでも桐の箪笥が二棹、押し入れに3箇所と、処分したつもりでもなかなか思いきれずにしまい込んでいる。
ところで、ようやく額の湿疹が完治した。
おでこの痒みで夜中も目が覚めてしまうほどだったが、友人のお勧めの「ユースキン」というクリームで治った。
皮膚科のステロイド剤よりも、近所のドラッグストアで売っている安いクリームに効き目があるとは驚いた。
砂糖を自宅ではなるべく取らないようにして、甘いものの代わりにさつま芋や、小豆、カボチャなどを薄い出汁醤油で煮て食べるようにした。
すると肌はとても安定するようになった。
ようやくすっきりと前髪をあげ、着物が着れる。
前髪を下げるとどこか子供っぽく、若い若いと弟子に言われ嫌な気分ではなかったが中身は50過ぎのおばさんである。
どうも落ち着かない。
とはいえ、おばあさんなるにはまだ早いと思うのでその狭間で心がどっちつかずだ。
友人には孫がいる人もいる。
女の顔はその年齢に適した美しさがあり、知識と経験と思慮深さを持ち合わせた余裕の顔でなければならないと考えている。
あまり若く見えるのは内容が薄っぺらいような気がして恥ずかしくもある。
まあ内容が伴わない私にはそういう顔を作るための努力を惜しまず続けるしかないが・・・。
50歳になったら外見だけに意識を向けるのではなく、今までの知識を深めたり新しいことに挑戦したり、後半の人生へ橋をかける作業をしなければならない。
若さや体力など失われていくものには潔く手を振って手放す。
しかし、その分また新しい知識を取り込み少しづつマイナーチェンジをしていく。
うまく変わっていけることが一番重要で一番難しい。
晩年はしっかりした自然でいい顔になったと言われたい。
シミもシワも白髪も格好良いと言われるには、女性としてでなく人間として素晴らしいものを持たねばならないが、圧倒的に足りないので今は色々なものでごまかしている。
弟子たちの着物サロン更新しています。
ぜひご覧ください。
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