宮尾登美子と着物暮らし
宮尾登美子先生のご自宅と我が家はご近所で、つい散歩がてらにその道を通ってしまいます。
また先生のお墓のある明静院も近くにあります。
ご自宅は日本家屋でたしか京都から宮大工さんを呼んで建てたと何かの本で読んだ気がしますが、とても美しい建物です。
ところで私の宝物の中の一つに、宮尾登美子先生の豆本があります。
先生は豆本が好きでいらして、お作りになるときにご自分のお着物の生地を使って製本されています。
先生の着物に触れながら豆本を読むのは至福の時間です。
また「きものがたり特別装幀愛蔵版」という限定250部の本も大切にしています。
当時六万五千円という高額な本ですが、これは吉岡幸雄先生が装丁の化粧袋に入っていて宮尾先生の大好きな西陣の長艸刺繍が施されています。
そして何より表紙が全て違っていてこちらも宮尾先生の愛用の着物を解いて作られているのです。
本の最後には
「未来永劫、きものは本の中身もろとも、思い出をたっぷりと包み込んだまま持ち主の手元に残ります。着古したご無礼も省みず、なるべく本の表紙に似合いそうなものを選んで提供させていただきました。どうぞみなさま、この本を私の分身とも思し召して長く長く可愛がってやってくださいませ。お願い申し上げます」
そう書かれています。
先生の本は何度も読み返してはその都度思うところがあり、着物生活の私にはありがたいバイブルとなっています。
先日、84歳までお茶の先生をしていらして90歳を過ぎてお亡くなりになった方のお着物の仕分けをさせて頂きました。
単衣と夏物を多くお持ちでいらして、全て絽や紗など正絹でした。
私はメンテナンスばかり考え、夏は木綿や麻ばかり着ますが、久しぶりにとろみのある絽の着物の美しさにはっといたしました。
着物が本当に好きな人は夏物に凝ると聞いたことがあります。
宮尾先生は年をとると、重いもの、固いものが嫌になると。
軽くて涼しい絽が一番好きであるとよく言っておられましたが、私も最近ざざんざや、重い紬が苦手だなと感じることがあります。
どなたか若い方に差し上げる時期なのかなと考えたりします。
着物は奥深く、いくつにになってもその歳で感じる新鮮なものがあり、年を重ねるほど楽しくなっていくものです。