暮らしと着物
楓の葉の柄は、赤い部分があれば紅葉、緑や青があれば新緑という風に解釈できますので、この小紋は春先まで着ることができます。
帯は古いものですので長さがとても短く、そういう時は短いなりの角出し風結びにしております。
先生はいつの時代の日本が好きですか?
そんな質問をよくされますが、私は祖母達に育てられているため、ひと世代抜けております(母が結核で療養所にいたため)
祖母が生きておりましたら、100歳以上になり、生まれは明治・大正となります。
そのころの教育方針や考え方を叩き込まれているため、やはり戦前の日本が一番良いと思っております。
朝は猫のまるおさんが必ず起こしにきます。
爪を立てずに私の顔をチョンチョンと叩くので、とても可愛らしいのです。
お布団は絹の毛布に綿の和布団で寝ております。(嫁入りの時の布団ですので30年が経っています。何年かに一度打ち直しをしたり布団生地を新しくしたりしております)
起きたらすぐに鏡台の前に座り、顔色を見て貧血があるかないかを見ます。
子供の頃から起き抜けの貧血がひどく、顔色が悪い場合は鉄剤を飲みます。
祖母が生きている頃は茄子の黒焼きを飲まされ、その味は不味く一日中気持ちが悪かった記憶がございます。
それから髪を梳かすのですが、沢山ある櫛の中からその日の気分で選びます。
ここはいつまで経っても少女のような気持ちで、毎朝わくわくいたします。
京都や上野の十三やさんのものや鹿児島の薩摩黄楊、細かい梳き櫛のお六など朝の髪の状態によって選んでおります。お土産で頂いたもの、父に買ってもらったもの、入学祝いに祖母にもらったものなどそれぞれの櫛に思い出がございます。
髪には江戸時代の調合とほぼ同じ伽羅の油をつけております。
調香師の方に作って頂きました。
伽羅の油とは、江戸時代前期に京都室町の「髭の久吉」が販売し、おもに若衆が使用しておりましたが、
その後明暦ごろから遊女が髪油として使うようになり寛文には江戸市中にも6ヶ所ほど売る店ができます。
元禄ごろからは一般の女性にも広まります。
昔は髪の毛を洗うことは毎日ではなかったので、髪の香り付けとしても重宝いたしたのでございましょう。
伽羅の油といっても実際には伽羅を使用しているわけではなく、良い香りという意味でのネーミングであり、丁子や白檀、桂皮などの香りが中心でございます。
着物にはお香を焚いておりますので、髪もおなじ香りであることが大事と思っております。
伽羅の油は鬢付け油ではないので、セット力はそれほどハードでなく普通のシャンプーで落とせます。
髪を梳かした後は普段着物に着替えて、香を焚きます。
それから抹茶を点てて、私の1日が始まります。